風変りなアンソロジー映画『フレンチ・ディスパッチ』 

◆特集記事

2021年公開の映画「フレンチ・ディスパッチ」

この映画は、主に3つの異なるストーリーで構成されているアンソロジー映画です。それぞれが雑誌に掲載された記事という体なのでストーリー同士の繋がりは無く、短編ドラマを連続して見るのに近い感覚です。

映画全体の設定は以下の通り。
フレンチ・ディスパッチという名の人気雑誌を刊行する出版社、その編集長が心臓発作で死亡したのですが、「自分が死んだら雑誌も廃刊にせよ」との彼の遺言に従って、ライターたちは最後の記事を書き上げるというお話です。

映画を構成する3つの記事(ドラマ)のうち、最も印象に残ったのは『確固たる名作』というエピソード。今回はそちらを紹介するので、残りの2つも気になった方はぜひ本編を視聴してみて下さい。

■確固たる名作

殺人容疑で監獄に収監された囚人が、偉大な芸術家として名を馳せるまでの過程を綴った記事です。

物語は一糸まとわぬ裸の女性と、それをモデルに絵を描く囚人の男の場面から始まります。
実は女性の正体は監獄の看守であり、なぜ彼女が囚人の絵のモデルになどなっているか?と気になりますよね。
それには理由がありました。異性同士というのは、通常とは異なる関係性に謎のときめきを見出すものでして、例えば入院患者と看護師(この場合は患者からの一方通行の可能性が高いですが)や、
誘拐犯と被害者(被害者が誘拐犯に好意を抱く傾向にある)、そして看守と囚人

そうです、この心理効果のせいで、女看守は囚人の男に好意を寄せ、また同じく男のほうも看守に好意を抱くようになっていました。だから絵のモデルになって裸を晒すのも厭わないというわけです。
そしてこの男の絵の才能に、とある画商が目を付けます。言い値よりも遥に高い金額で絵を購入し、
世界中の芸術愛好家に売り込みを始めたところ、その話題はあっという間に広がっていきました。

そして画商は囚人にこう頼みます。「君の才能を活かして、もっと規模の大きい作品を描き上げてくれ」。目的はもちろん高額で絵を売り捌く事。
囚人の男にしてみても一生監獄から出ることは出来ないのだから、創作活動は人生の暇つぶしにもなるという事で、承諾します。

そして3年の月日をかけて完成させた作品。ついに監獄でのお披露目会が開かれました。世界中の愛好家たちが固唾を飲んで見守る中、囚人作の絵画がベールを脱ぎます。

そこに並んでいたのは全て、女看守をモデルとした現代風アート。一見するとただ絵具を無作為に塗りつけているだけにも思えますが、そこには確かに裸の看守の姿が存在しています。
問題が発覚したのは次の瞬間でした。キャンバスに描いていると思われたそれらの作品は、実は全てフレスコ画だったのです。
フレスコ画とは、紙ではなく壁に直接描く、いわゆる「壁画」の事。
これじゃいくら高値を付けても売れやしない。だって壁ごとひっぺがして自分のコレクションに加えるなんて出来ないし、買い手が付かない。

売れない事を悟った画商は激怒します。「3年も待たせておいて、お前はなんてひどい事をしたんだ!」と囚人に掴みかかり、「この殺人犯め!」と口汚く罵る始末。
囚人も黙っておらず、車いすに乗りながら画商を追い回します。2人の喧嘩は女看守によって制止されますが、その時にとある愛好家の女性が「この絵を買い取りたい」と言ってきました。

壁から剥がすことは出来ないのでその所有権を買い取る形になりますが、双方は同意。
掌を返して「君はよくやった」と囚人をほめたたえる画商。
晩年にはフレスコ画が描かれた監獄の部屋ごと移送して、今では愛好家の立派なコレクションの一つになっている、というお話でした。





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